雇用の場からの反社会的勢力の排除

1 はじめに

平成19年に政府が「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を公表して以来、日本経済団体連合会、全国銀行協会、日本証券業協会等の団体が、相次いで反社会的勢力排除の方針を明確化し、また、全国では暴力団排除条例が、順次制定・施行されています。 こうした状況をふまえると、企業の社会的責任や企業防衛の観点から、企業はいかに優秀な人材であっても、反社会的勢力である疑いのある者を従業員として採用すべきではないし、反社会的勢力である従業員については、直ちに雇用契約を解除すべきことになります。

2 採用時の対応

(1)誓約書の徴求

そこでよく行われているのが、採用時に、応募者が反社会的勢力関係者でないことに加え、将来も反社会的勢力に関与しないことを誓約する旨の誓約書を徴求しておくことです。 

すなわち、採用時に、「私は、反社会的勢力との関係を有しておらず、かつ、将来においても関係をもたないことを誓約し、誓約内容に違反したときは、内定取消、解雇その他いかなる措置をうけても異議はありません。」といった内容を盛り込んだ誓約書を提出してもらうのです。

【 具体例 】

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誓 約 書

○○株式会社 御中

平成  年  月  日

住所           
氏名          印

私は、貴社に従業員として入社のうえは、下記事項を誓約いたします。
また、私は、下記事項のいずれかに反した場合、内定取消し、解雇その他一切の処分を受けても異議を述べません。

1.貴社の就業規則及び服務に関する諸規定に従い、誠実に勤務すること。
2.履歴書その他の貴社に提出した書面に記載した内容は、真実であること。
3.暴力団、暴力団関係者、暴力団関係企業、総会屋又はこれらに準ずる団体(反社会的勢力)と関係を持っておらず、将来においても一切持たないこと。
4.貴社の信用・名誉を毀損するような言動を行わないこと。
5.業務上知り得た貴社の営業秘密を第三者に漏洩しないこと。
以上

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・出典:「暴力団排除条例ガイドブック」(レクシスネクシス・ジャパン株式会社)

(2)身元確認書類の提出

次に、応募者から、反社会的勢力と関わりの有無を記した身元確認書類などの提出を受けることも考えられます。

この点、応募者の人格権やプライバシーの観点から、職業安定法5条の4は、事業主に個人情報の収集・保管・使用は、その業務の目的の達成に必要な範囲内で行うことを義務付けており、これを受けた厚生労働省告示は、企業が、求職者の社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想・信条に関する個人情報を収集することを原則として禁止しています。

しかし、反社会的勢力は、自己の意思で脱退することができるから、「社会的身分」には該当しないといわれており、また「思想・信条」とは思想、信念、そのほか人の内心におけるものの考え方を意味しますから、反社会的勢力であることは、「思想・信条」にも該当しません。 ですから、このような身元確認書類の提出を求めることも許されると考えられます。

3 就業規則による対応

また、就業規則などにおいて、懲戒解雇事由として次のような規定をしている場合は、服務規程違反による懲戒解雇が可能です。

第○条(定義) 本規程において、反社会的勢力とは、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しないもの、暴力団準構成員、暴力団関係企業・団体、総会屋、社会運動等標ぼうゴロ等、特殊知能暴力団等その他反社会的勢力の構成員、その他これらに準じるものをいう。

第○条(反社会勢力との決別) 
1 当社の社員は反社会的勢力と一切の関係をもってはならない。 
2 前項に違反した社員については、就業規則に定める懲戒解雇、その他の懲戒処分に処するものとする。

出典:「暴力団排除条例ガイドブック」(レクシスネクシス・ジャパン株式会社)

4 従業員が反社会的勢力関係者であることが判明した場合

(1) 採用時から現在まで反社会的勢力である場合

従業員が、反社会的勢力でない旨誓約書を提出しているにもかかわらず、採用時から反社会的勢力であった場合は、経歴詐称として懲戒解雇をすることになります。また、上記のように就業規則などの規定があれば、服務規程違反として懲戒解雇することも可能です。

(2)採用後に反社会的勢力となった場合

採用時は反社会的勢力ではなかったけれど、採用後に反社会的勢力となった場合は、経歴詐称を理由とする懲戒解雇はできません。しかし、誓約書を提出していたり、就業規則に、上記のような社会的勢力を排除する旨の条項がありながら、採用後に反社会的勢力に加入した場合には、服務規程違反により、企業との信頼関係が喪失したものとして、懲戒解雇が可能です。

このように、従業員が現在反社会的勢力である場合は、誓約書の提出や就業規則に反社会的勢力を排除する旨の条項があれば、原則として懲戒解雇が可能です。ところが、どちらもない場合は、解雇は困難な場合もあり得ます。したがって、できるだけ採用時に誓約書等の提出を求めたり、就業規則に反社会的勢力を排除する旨の条項を設けておくことが重要です。

5 従業員が反社会的勢力と接触していた場合

企業の社会的責任や企業防衛の観点からは、反社会的勢力とは一切関係をもつべきではなく、お中元・お歳暮のやり取り、ゴルフ、会食等の社会的接触も許されるべきではありません。

もっとも、反社会的勢力との接触を懲戒解雇事由としている場合でも、例えば従業員が暴力団員と1回会食をしたことをもって、懲戒解雇処分を行うと、処分が重すぎ、無効と判断される場合もあります。

したがって、直ちに懲戒解雇をすることが困難だと思われる場合は、その態様に応じて、退職勧奨、転勤、配置転換、又はより軽い懲戒処分である譴責処分や戒告によって、反社会的勢力との関係を断ち切らせるように努めるべきことになります。

以上
2013.3/2015.7補