債 権 の 回 収

1 債務者の預貯金から債権を回収するには

「せっかく裁判に勝ったのに債務者がお金を払わない!!」 

時々そんな悲鳴を耳にします。
高い費用や長い時間をかけてやっと裁判に勝って判決が確定するなどしても、債務者が自ら支払わない場合は、依然としてお金は手に入りません。でもそんな時、債務者に資力がある場合なら、強制執行を申し立て、国家により強制的にお金を回収してもらうことができるかもしれません。
どこから回収するかはケースバイケースですが、大抵の場合一番最初に思いつくのが、債務者の預貯金ではないでしょうか。
債務者の預貯金から強制的に回収する方法は債権執行といいますが、債権執行を申し立てる場合、差押さえの対象となるべき債権を特定することが必要とされています(民事執行法規則133条2項)。
そして預金債権の場合、実務では口座番号までは特定する必要はないものの、原則として支店については特定する必要があるとされています。

もっとも、債務者が取引している金融機関はわかっても、支店までは特定できない場合も少なくありません。
このような場合、どこの支店に債務者の預金があるのか調べる方法として、弁護士会照会(弁護士法23条の2)がありますが、金融機関によって回答してくれるところと回答してくれないところがあります。
なお、調査会社で預金口座を探索するところもあるようですが、費用がそれなりにかかると言われています。

2 支店名個別特定方式

現在スタンダードに行われている方式は、預金がありそうと思われる金融機関の支店を特定し、そして各支店ごとに債権を割り付ける方式です。

ただこの方法がうまくいくかは偶然に左右されがちです。

というのは、例えば100万円の債権があるとして、甲銀行に債務者の預金債権のありそうな支店が3つある場合(それぞれA、B、C支店とします)、その3つの支店にそれぞれA支店40万、B支店30万、C支店30万、といった具合に割り付けて差押えを行います。そしてそれぞれの支店からうまく回収できればいいのですが、実際の預金残高がA支店に80万円、B支店に10万円、C支店に0円だったという場合、割り付けの範囲でしか差押えはできませんから、回収できるのはA支店からの40万円とB支店の10万円の合計50万円です。
この場合、未回収の50万円の債権で再度A支店を差し押さえることはできますが、1回目の差押の際にその旨が債務者にも通知されることから、2回目の差押までに残額は引き出されてしまい、回収できない可能性が高いことになります。

3 全店一括順位付け方式・限定的支店順位付け方式

このような状況の中、平成14年にペイオフ方式が実施されたことにより、金融機関の本店において名寄せシステム構築が義務づけられ(預金保険法55条の2第3項)、また顧客情報ファイル(CIF)が整備されているとして、特定の金融機関のすべての店舗を対象とした順位付けをし、先順位店舗の預金債権の額が差押債権額に満たないときは、順次予備的に後順位店舗の預金債権を差押債権とする旨の預金債権の差押を求める申立(全店一括順位付け方式)や、たとえば3、4支店を指定して順位をつけて申立てるなど、店舗をある程度特定の上申立てる方法(限定的支店順位付け方式)が相次いで試みられました。

高裁レベルでは肯定例と否定例が2分され、判断がわかれていましたが、近時の最高裁は全店一括順位付け方式については差押え債権の迅速かつ確実な識別が容易でないことから、第三債務者(金融機関)や競合する差押債権者等の利害関係人の地位が不安定になるとして、これを否定しました(最決平成23年9月20日)。

もっとも全店舗ではなく、支店を限定する限定的支店順位付け方式については、最高裁でも認められる可能性が残されているように思われます。

4 預金額最大店舗指定方式

一方もう一つの方法として、金融機関の複数の店舗に預金債権があるときは預金債権額合計の最も大きな店舗の預金債権を対象とし、預金債権額合計の最も大きな店舗が複数あるときは、そのうち支店番号の最も若い店舗の預金債権を対象とするという方式(預金額最大店舗指定方式)が試みられています。

最高裁の判断はまだありませんが、高裁レベルで、この方式は預金債権額合計の最も大きな店舗が決まりさえすれば、その後の処理は支店名個別特定方式と同じだから、全店舗一括順位付け方式と比べて第三債務者(金融機関)の負担が格段に小さいことを理由にこれを認めたものがあります(東京高決平成23年10月26日)。
この方式を行うことができれば、債務者の取引金融機関さえ特定でき、どこかの支店に残高があれば、空振りはなくなることになります。前述の事例ではA支店から80万円回収できることになります。

もっとも上記高裁決定の事例は、事前に弁護士会を通して照会をし(拒絶)、差押命令申立却下決定後、執行抗告をした末判断されたものです。従って、現段階では、同様の手続きを踏まないと認められない可能性があり、最高裁の判断が待たれるところです。

5 終わりに

結局万が一のことを考えて、日頃から可能であれば相手方(債務者)の取引金融機関だけでなく、その支店名まで把握しておくことをお勧めします。

以上
2012.8/2015.7補